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津地方裁判所 平成6年(行ウ)15号 判決 1997年11月13日

三重県三重郡菰野町大羽根園松ケ枝町一〇番地の二

原告

片岡邦信

右訴訟代理人弁護士

森山文昭

渥美雅康

松本篤周

加藤美代

長谷川一裕

三重県四日市市西浦町二丁目二番八号

被告

四日市税務署長 坂本治己

右指定代理人

渡邉元尋

意元英則

谷口實

木岡好己

山中まさ子

寺田弘明

小林孝生

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一申立

一  原告

1  被告が原告に対して平成四年一二月一七日付で行った平成元年分の所得税の更正のうち、総所得金額九八二万二一五八円、納付すべき税額一一二万一八〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定は、これを取り消す。

2  被告が原告に対して平成四年一二月一七日付で行った平成二年分の所得税の更正のうち、総所得金額九九八万三二六二円、納付すべき税額一一九万八五〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定は、これを取り消す。

3  被告が原告に対して平成四年一二月一七日付で行った平成三年分の所得税の更正のうち、総所得金額一〇一六万七六三六円、納付すべき税額一三三万六九〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定は、これを取り消す。

4  被告が原告に対して平成四年一二月一七日付で行った平成元年分の消費税の更正のうち、課税標準額八四四七万八〇〇〇円、納付すべき税額五〇万六八〇〇円を超える部分(但し、異議決定で取り消された部分を除く。)は、これを取り消す。

5  被告が原告に対して平成四年一二月一七日付で行った平成二年分の消費税の更正のうち、課税標準額一億九一六万三〇〇〇円、納付すべき税額六五万四九〇〇円を超える部分及び過少申告加算税を賦課決定(但し、いずれも異議決定で取り消された部分を除く。)は、これを取り消す。

6  被告が原告に対して平成四年一二月一七日付で行った平成三年分の消費税の更正のうち、課税標準額一億一九三一万二〇〇〇円、納付すべき税額七一万五八〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定(但し、異議決定で取り消された部分を除く。)は、これを取り消す。

7  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二事案の概要

本件は、料理飲食業を営む原告が、被告が原告に対して行った、原告の平成元年分ないし同三年分(以下「本件各係争年分」という)の所得税更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件所得税更正処分等」という)並びに平成元年四月一日から同年一二月三一日まで、同二年一月一日から同年一二月三一日まで、同三年一月一日から同年一二月三一日までの各課税期間(以下「本件各係争課税期間」という)の消費税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件消費税更正処分等」という。また、本件所得税更正処分等及び本件消費税更正処分等を合わせて単に「本件各更正処分等」という)(いずれも消費税については異議決定で取り消された部分を除く)中、原告が自認する額を超える部分の取り消しを求めた事案である。

一  争いのない事実

1  原告は、肩書地に居住し、三重県四日市市諏訪栄町一二番一九号所在のアーバンビル内の半地下において、屋号を「ステーキ樽おやじ」、同ビルの一階部分において、屋号を「すし樽おやじ」という飲食店を個人で営んでいるほか(以下右二店舗を単に「樽おやじ」という)、飲食業を主たる事業とする三重県四日市市西新地六番一〇号所在(本店所在地)の有限会社片岡イーティング(以下「片岡イーティング」という)の代表取締役を兼務しているところ、本件各係争年分の所得税及び本件各係争課税期間の消費税について、それぞれ法定申告期限までに、別表1ないし6の各確定申告欄記載のとおりの申告を行った。

2  被告は、原告の本件各係争年分の所得税、本件各係争課税期間の消費税、及び片岡イーティングにかかる法人税及び消費税について、それぞれ申告内容を確認する必要があったことから、被告の個人課税第二部門に所属する服部義弘上席国税調査官(以下「服部上席」という)、個人課税第三部門に所属する北河健一国税調査官(以下「北河」という)、法人課税第三部門に所属する上嶋豊志国税調査官(以下「上嶋」という)及び名古屋国税局課税第一部資料調査第二課に所属する松尾修司主査(以下「松尾主査」という)、木村文彦国税実査官(以下「木村」という)、大石智雄国税実査官(以下「大石」といい、右六名を総称して「調査担当者ら」という)を、平成四年一〇月二〇日に、原告の自宅及び店舗に派遣するなどして、申告内容の税務調査を行わせた(以下「本件税務調査」という)。

3  本件税務調査の結果、原告は、本件各係争年分の事業所得についての帳簿を記帳しておらず、売上げの原始記録となるべき売上伝票は、平成三年分については全て保管されていたものの、同元年分については一部しか保存がなく、同二年分については全く保存がなされておらず、また、必要経費にかかる原始資料である請求書、領収書、従業員に対する給与明細等の保存が不完全で、原告の本件各係争年分の必要経費の額を実額で算定することができないことが判明し、したがって、原告の所得金額を実額計算により算定できなかったことから、被告は、推計の方法によって原告の所得金額等を算定することとした。

4  被告が原告に対して行った、原告の本件各係争年分の本件所得税更正処分等及び本件各係争課税期間の本件消費税更正処分等の経緯は別表1ないし6記載のとおりである。

5  原告は、本件各更正処分等について、平成五年二月一五日付で被告に対し、異議申立をしたところ、被告は、平成五年五月一四日付で、所得税についてはいずれも異議申立を棄却する旨の決定をしたが、消費税については、別表4ないし6記載のとおり、原処分の全部又は一部を取り消す旨の決定(以下「異議決定」という)をした。

6  そこで、原告は、国税不服審判所長に対して平成五年六月一〇日付で審査請求を行ったところ、国税不服審判所長は、平成六年八月三一日付で、いずれもこれを棄却する旨の裁決を行い、右裁決書謄本は、平成六年九月一四日付で、原告宛に発送され、原告に到達した。そして、本件訴えが同年一二月七日に提起された。

二  争点

1  本件税務調査手続の適法性

(1) 本件税務調査の任意性

(2) 本件税務調査に際しての事前通知の要否

2  推計課税の合理性

3  本件所得税更正処分の適法性

4  本件消費税更正処分の適法性

5  本件過少申告加算税賦課決定処分の適法性

三  争点に関する当事者の主張

1  争点1(本件税務調査手続の適法性)について

(一) 被告の主張

所得税法二三四条一項の質問調査権の行使は、質問調査の必要があること、相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまることを要件とするが、右限度にとどまる限り、その範囲、程度、場所等実定上特段の定めのない実施の細目については、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられており、実施の日時場所の事前通知、調査の理由及び必要性の個別的、具体的な告知の如きは、質問検査を行う上での法律上の要件とされているものではない。

本件税務調査は、所得税法二三四条に基づいて、適法かつ適切になされた。

(1) 本件税務調査の任意性について

本件税務調査は、任意調査であって、税務職員に求められた質問検査権の行使として原告に対し、質問及び検査をしたものであり、これに対する原告の回答も原告が任意に応じたもので適法である。

(2) 事前通知の要否について

前記のとおり、所得税法二三四条一項の質問調査権の行使において、実施の日時場所の事前通知、調査の理由及び必要性の個別的、具体的な告知の如きは、質問検査を行う上での法律上の要件とされているものではないから、本件税務調査において、調査担当者らが原告等に対し、調査の日時、場所等の事前告知を行わず、個別的具体的な調査理由を開示しなかったとしても右調査担当者の質問検査権の行使が違法となるものではない。

(二) 原告の主張

被告による本件各更正処分等(いずれも、異議決定によって取り消された部分を除く)は、以下の理由により違法である。

(1) 本件税務調査の任意性について

被告が平成四年一〇月二〇日に行った原告に対する本件税務調査は、原告の承諾なく強制的になされたもので、令状によらない事実上の強制調査とも言うべきもので、令状主義を逸脱した違法があるとともに、営業に関係のない原告の私的な場所、物に対しても手当たり次第に捜索したものであって、許容される質問検査権の範囲を著しく逸脱したもので違法である。

すなわち、本件税務調査に際し、調査担当者らは、ドアをこじ開けて玄関に無理矢理入り込み、調査員の一人が、いきなり「帳簿を見せなさい。」と言って勝手に上がり込み、居室内を手当たり次第に調べ回り、原告のバックや下着の入った洋服箪笥にとどまらず、自宅の外にある物置や二階の寝室も調査した。

原告が調査の中止を要求したにもかかわらず、調査担当者らは、要求を拒絶して税務調査を行い、持ち込んだコピー機を使って勝手にコピーを取ったり、無断で寝室内にまで入り込むなど、原告の同意を得ずに調査を行った。

(2) 原告に対する事前通知の欠如

原告の税務調査は、原告に対する事前通知もなく、調査理由を告げることもなく行われたものであり、違法である。

2  争点2(推計課税の合理性)について

(一) 被告の主張

被告は、原告の営む飲食業に係る事業所得の金額については、いわゆる通達回答方式によって、被告並びに隣接地域を所轄する税務署(津、鈴鹿、桑名及び名古屋市内九署)管内において原告と事業の種目、規模、形態が類似する同業者を無作為かつ機械的に抽出し、その必要経費率(総収入金額に占める必要経費の額の割合をいう)の平均値を求め、被告の調査により実額で把握した平成三年分の原告の事業所得の総収入金額及び推計により算出した平成元年ないし同二年分における原告の事業所得の総収入金額と右必要経費率を用い、推計によりこれを算出した。

推計の方法による所得金額は、その性質上、客観的実体に合致することを要しないことはもとよりであるが、経験則上、一応の合理性を保有することを要するところ、推計方法が合理的であると言うためには、推計の基礎事実が正確に把握されていること、種々の推計方法のうち、当該具体的事案に最適なものが選択されるべきこと、具体的推計方法自体できるだけ真実の所得に近似した数値が算出され得るような客観的なものであることなどが必要となるところ、本件で被告の採用した前記の推計方法は、以下のとおり、合理的なものである。

(1) 推計方法の最適性について

原告はいわゆる大衆酒場を営んでいるところ、右事業では売上金額(収入金額)と酒・ビール等の仕入金額とは強い相関関係が認められること、原告の業態は、現金仕入などが多いため、反面調査などによっても仕入金額を全体的に把握できず、原告が申告に際して集計した旨主張する仕入金額も信用性に乏しいことから、原告の仕入金額の全てを漏れなく把握することは困難であったこと、平成三年分の原告の売上金額が実額で把握できたこと、平成元年ないし同三年の酒・ビール等の仕入金額が実額で把握できたこと、基礎事実が正確に把握できる限りは、効率法、資産負債増減法よりも比率法による方が、より真実の所得に近似した結果を得られることなどから、実額で把握できた平成三年分の売上金額及び酒、ビールの仕入金額を基礎事実として、平成元年及び同二年の原告の収入金額を推計すると共に、同業者比率法のうち、原告の収入金額を基礎として所得金額を算定する方法を選択したものであって、本件において採用しえた最適な推計方法である。

(2) 基礎数値の正確性について

平成三年分の売上金額は、原告の保存していた売上伝票の合計金額である一億三三三三万二〇二六円であり実額として正確に把握されたものである。

酒、ビール等の仕入金額は、いずれも反面調査等によって実額で把握した、原告の仕入先である株式会社サカツコーポレーション及びマルタマ嶋商店に支払った金額の合計額であって、その内訳は別表14のとおり正確に把握されている。本来なら、期首及び期末棚卸金額を考慮すべきところ、原告の本件各係争年分の棚卸金額が不明であり、また、本件各係争年分において店舗の増減等の著しい事業内容の変動が認められないので、期首及び期末の棚卸高はほぼ同額であると推認されることから、売上原価の額は仕入金額と同額とした。

(3) 推計方法の客観性

ア 売上金額の本人率による推計の合理性

大衆酒場の売上金額と酒等の仕入金額とは強い相関関係が認められること、調査の過程で原告の平成三年分の売上金額及び同年分の酒、ビール等の仕入金額の実額が把握できたことから、平成元年分及び同二年分の売上金額は、実額により把握した平成三年分の売上金額と酒、ビール等の仕入金額との比率を元に、平成元年分及び同二年分の酒、ビール等の仕入金額から合理的に推計したものである。

なお、被告は類似同業者の必要経費率を用いた推計によって原告の事業所得の金額を算出しているが、同業者比率による推計方法は信頼性が高く、合理性のあるものである。

イ 同業者抽出基準の合理性(同業者の業種・業態の類似性)について原告が営む屋号を「すし樽おやじ」及び「ステーキ樽おやじ」とする各飲食店の営業は、いずれも主としてアルコールを含む飲料を多用なつまみ料理と共に飲食させるいわゆる「居酒屋」であり、一般的な寿司屋及びステーキ屋とは業態を異にしている。そこで、被告は、『「平成元年分ないし平成三年分の飲食業の同業者調査報告書」の提出について(一般通達)』(以下「本件通達」という)に基いて、本件通達に記載した同業者抽出基準(以下「本件抽出基準」という)に該当する者を抽出した。

本件抽出基準の業種業態の類似性については、日本標準産業分類の分類項目による「大分類Ⅰ-卸売・小売業、飲食店」「中分類61-その他の飲食店」「小分類613-酒場、ビヤホール 大衆的設備を設け、主として酒類及び料理をその場で飲食させる事業所をいう」を原告の同業者として特定した。

また、被告は同業者の抽出に際し、原告との類似性を確保するために右分類に属する飲食店を営む個人事業者のうち、他業種を兼業していたり、フランチャイズ・チェーンに加盟していたり又は主催していたり、年の途中で開業、廃業、休業又は業態を変更した者を除いた上で、各年分の売上が、原告の売上金額(平成三年分)又は売上と推定された金額(平成元年及び同二年分)の上下それぞれ四〇パーセントの範囲内にある者との条件を更に付した。また、抽出対象者を青色申告書を提出している者に限定し、所得税及び消費税の調査が行われている途中の者、更正処分又は決定処分が行われた者のうち、国税通則法及び行政事件訴訟法の規定による不服申立期間又は出訴期間を経過していない者並びに不服申立中又は訴訟中の者を除き、抽出資料の正確性を確保した。

抽出地域については、原告の店舗が近鉄四日市駅周辺の繁華街にあることから、同様な立地条件にある近隣の同業者を抽出することが合理的であることから、繁華街を管内に抱えている近鉄名古屋線沿線の主要駅のある市を管轄する税務署を対象にした。

ウ 同業者抽出過程の合理性について

本件同業者の抽出は、本件通達に従い四日市税務署長他一二税務署長が、上級官庁である名古屋国税局長からの通達に従い、無作為、かつ、機械的に行ったものであるから、被告の恣意が介在する余地は皆無であり、客観性は担保されている。

エ 同業者抽出件数の合理性について

本件通達によって抽出された同業者は、四日市税務署長他一二税務署長から名古屋国税局長宛てに報告されているところ、抽出された同業者の件数は、本件各係争年分ともに七件が報告されており、本件抽出基準を満たす原告の類似業者として、合理性を担保しうる件数である。

オ 同業者率の合理性について

本件における同業者率は、本件通達によって報告を受けた類似同業者の収入金額に対する必要経費の割合(必要経費率)をそれぞれ算出して、右必要経費率の平均値を求め、右平均値を使用して原告の所得金額を推計した。本件通達に対する報告の作成に当たっては、本件通達に統一的基準を定めて右必要経費率の同質性を図っている。すなわち、「必要経費の金額」欄には、青色決算書の売上原価「差引原価」欄の金額と経費「計」欄の金額及び「専従者給与」欄の金額との合計額を記載することとし、減価償却費の金額は定額法による計算によって算出される普通償却額によることとした。これにより、本件の同業者率は十分な合理性が担保されている。

(4) まとめ

以上のとおり、本件推計においては、業種業態の同一性、営業規模の類似性及び平均値算出過程の整合性等、推計の基礎的要件に欠けるところはない。

したがって、納税者の個別的な営業条件の差異はそれが平均値による推計を不合理ならしめる程度に顕著なものでない限り、これを斟酌することを要しない。

(二) 原告の反論

(1) 推計の合理性の欠如

被告が推計の基礎にした同業者は、原告とは以下の点で業態を異にしており、その経費率は原告とは大きくかけ離れているため、右経費率を前提として行われた、事業所得金額の必要経費の推計には合理性がなく、本件推計課税は、推計の合理性を欠くものとして違法である。

ア 同業者の類似性について

被告は、日本標準産業分類の「大分類Ⅰ・中分類61」のうちの「小分類613-酒場、ビアホール」に属する飲食店を経営する業者を同業者としている。右分類によれば、「小分類613-酒場、ビアホール」の例としては、「大衆居酒屋、焼鳥屋、おでん屋、もつ焼屋、ビアホール」が挙げられており、主として客に酒類を飲食させるという営業内容であるところ、「すし樽おやじ」は、客に対して豊富なメニューで寿司や刺身魚料理等を酒類とともに提供しているもので、明らかに業態を異にしており、同業者とはいえない。

原告の営業においては、同業者に比較して、被告の料理の食材費や調理人の人件費、諸設備等の諸経費が占める割合が高いことが類型的に認められ、当然必要経費率にも顕著な有意差が生じる。

イ 同業者の必要経費率について

本件通達によれば、「必要経費額」は、青色申告決算書の売上原価「差引原価」欄の金額と経費「計」欄の金額及び「専従者給与」欄の金額後の合計額とされており、一般経費と特別経費の区分すら行われていない。当該同業者が特別経費である地代、家賃を支払っているのか、自己所有の建物において営業しており地代家賃の負担がないのかによって必要経費の額は顕著になるが、本件通達では全く区別がなされていない。

「樽おやじ」の各店舗は、貸しビルであるアーバンビルの半地下及び一階部分を訴外有限会社ピノキオ観光から賃借しており、その他の駐車場賃貸料も含めて一年間で合計一二〇〇万円の賃料を特別経費として支出していた。原告が、負担していた地代家賃は、月額約一〇〇万円であり、地代家賃はかなり大きかった。ところが、被告が集めた同業者の中には、地代家賃の負担が全くない者も含まれており、同業者の類似性を欠き、同業者比率による推計には合理性がない。

ウ 本人比率による推計の合理性について

原告は、平成五年分からは青色申告により確定申告しているが、原告の平成五年分及び同六年分の「所得税青色申告決算書」によれば、各年分の収入金額、必要経費の金額(同決算書の売上原価「差引原価」欄の金額と経費「計」欄の金額及び「専従者給与」欄の金額の合計額)及び必要経費率は次のとおりである。

<1> 平成五年分

収入金額 一億二五二四万六八二二円

必要経費額 一億二四一九万七七三九円

必要経費率 九九・一パーセント

<2> 平成六年分

収入金額 一億一五七三万七六二二円

必要経費額 一億一三二九万四三六三円

必要経費率 九七・八パーセント

以上のとおり、原告の必要経費率は平成五年分及び同六年分ともにかなり高く、この原因は、地代家賃の負担が大きく、売上原価率が高い等の原告の特殊な事情が左右していると推認されるが、この事情は本件各係争年分においても同様であり、同業者比率を用いた推計には合理性がない。

(三) 原告の反論に対する被告の再反論

(1) 同業者の必要経費率について

被告は、類似同業者の抽出にあたり、地代家賃の支払の有無については、同業者抽出基準に含めておらず、必要経費の科目別の内訳については報告を求めていないから、被告が主張する類似同業者の中に地代家賃等の支出がない同業者が含まれている可能性はあるが、仮にそのような同業者が含まれていたとしても、地代家賃の支出の有無により必要経費の率が顕著に異なるとは認められない。

すなわち、自己所有の建物を営業の用に供している場合、地代家賃の支出は必要ないが、これに代えて、建物の減価償却費、維持管理費及び固定資産税、土地建物を借入金で所得した場合の支払利子等の負担があり、一概に両者の必要経費率に顕著な差異が生じるものとはいえないのであって、本件推計に当たって無作為かつ機械的に抽出された各類似同業者間の必要経費率にも顕著な差異は認められない。

地代家賃の金額は、店舗の立地条件や面積等を勘案して賃貸人及び賃借人双方が合意して決定されるものであるところ、居酒屋等の大衆的な飲食店は、不特定多数の顧客を得意先とするものであるので、売上高や地代家賃の多寡は店舗の立地条件によって左右され、立地条件のよい店舗であれば、地代家賃が高額であってもそれに見合う売上が期待されるのであるから、地代家賃の金額の多寡は、必要経費率が類似同業者に比して著しく高いことの根拠となり得ない。

(2) 本人比率による推計の合理性について

原告は、原告の平成五年分及び同六年分の必要経費の金額を算定するに当たり、原告の専従者給与の額も加算しているが、本件係争年分には原告に事業専従者は存在しなかったので、専従者給与を加算すべき理由がない。

原告の平成五年分の収入金額は、原告の平成三年分の収入金額の九三・九パーセント、同六年分の収入金額は、同三年分の収入金額の八六・八パーセントとそれぞれ大幅に減少しているところ、収入金額が減少しても、必要経費の中での固定費の金額は、収入の減少に伴い同様に減少するものではないので、所得率の減少は収入金額の減少率を遙かに上回るのが通常であって、特に、飲食店の場合は、収入金額に直接比例すると認められる売上原価の割合は比較的低いので、所得金額の減少金額は収入金額の減少に近いものとなり、所得率の減少幅が極めて大きくなると考えられる。したがって、平成五年分及び同六年分の必要経費率は、本件係争各年度の所得金額を推計する参考とはなりえない。

いわゆるバブルの最盛期であった平成元年から同三年当時と、バブルが終わって景気が低迷していた平成五年から同六年当時と一律に比較することはできない。

3  争点3(本件所得税更正処分の適法性)について

(一) 被告の主張

(1) 事業所得の金額について

ア 原告の本件各係争年分の事業所得の総収入金額について

被告は、別表7「事業所得の総収入金額について」に記載のとおり、平成三年分については、同年分の売上伝票によって計算した実額を事業所得の総収入金額とし、平成元年分及び同二年分の事業所得の総収入金額については、平成三年分の原告の酒・ビール等の仕入金額に対する同年分の事業所得の総収入金額の割合(以下「自己収入率」という)を求め、それぞれの年分の酒・ビール等の仕入金額に右自己収入率を適用して算出した金額を事業所得の総収入金額とした。

イ 原告の本件各係争年分の事業所得の金額について

原告の本件各係争年分の事業所得の金額及びその計算は、別表8「事業所得の金額について」に記載のとおりである。

必要経費の額は、類似同業者の必要経費率の平均値を適用して、推計により求めた額であり、その計算は、別表9「必要経費の額について」記載のとおりである。

類似同業者の必要経費率の平均値の算出は、別表10「必要経費率について」記載のとおりである。

(2) 他の所得について

原告の本件各係争年分の不動産所得及び給与所得の金額は、原告の本件各係争年分の所得税の確定申告書記載のとおりである。

(3) 総所得金額について

原告の本件各係争年分の所得金額の内訳及び総所得金額は、次のとおりである。

ア 平成元年分

事業所得の金額 金一九〇一万五六七三円

不動産所得の金額 金 四一七万三〇三八円

給与所得の金額 金 三三四万五〇〇〇円

総所得金額 金二六五三万三七一一円

イ 平成二年分

事業所得の金額 金一九五二万八二九四円

不動産所得の金額 金 四一二万三四七七円

給与所得の金額 金 三三四万五〇〇〇円

総所得金額 金二六九九万六七七一円

ウ 平成三年分

事業所得の金額 金二〇一三万三一三六円

不動産所得の金額 金 四一一万九三〇〇円

給与所得の金額 金 三五一万一四〇〇円

総所得金額 金二七七六万三八三六円

(4) 所得控除の額について

原告の本件各係争年分の所得控除の額は、次のとおり、平成元年分が二二〇万一〇〇〇円、同二年分が二二二万三〇〇〇円、同三年分が二二四万〇〇〇〇円である。

ア 配偶者特別控除の額

本件各係争年分の総所得金額は、いずれも一〇〇〇万円を超えるため、平成元年分及び平成二年分の配偶者特別控除の適用はない。

イ その他の所得控除の額

その他の所得控除の額は、原告の本件各係争年分の所得税の確定申告書記載のとおりである。

(5) 課税所得金額について

被告が主張する原告の本件各係争年分の課税所得金額は、次のとおりである(一〇〇〇円未満の端数切捨)。

ア 平成元年分

総所得金額 二六五三万三七一一円

所得控除の額 二二〇万一〇〇〇円

課税所得金額 二四三三万二〇〇〇円

イ 平成二年分

総所得金額 二六九九万六七七一円

所得控除の額 二二二万三〇〇〇円

課税所得金額 二四七七万三〇〇〇円

イ 平成元年分

総所得金額 二七七六万三八三六円

所得控除の額 二二四万〇〇〇〇円

課税所得金額 二五五二万三〇〇〇円

(6) まとめ

以上のとおり、本件所得税更正処分は、いずれも本訴における被告主張額の範囲内であるから、適法である。

(二) 原告の主張

前記2(二)のとおり、被告の採用した推計方法には合理性がないから、本件所得税更正処分は違法である。

4  争点4(本件消費税更正処分の適法性)について

(一) 被告の主張

原告は、本件各係争年分の基準期間(昭和六二年分ないし平成元年分)の課税売上高が、いずれも三〇〇〇万円を超えるから、消費税法九条規定の小規模事業者には該当しない。

原告の本件各係争年分の課税資産の譲渡等の対価の額は、事業所得の総収入金額及び不動産所得の総収入金額の合計額であるところ、右合計金額は、別表11ないし13「消費税額の計算」の「課税資産の譲渡等の対価の額」欄に記載のとおりである。

なお、平成元年分の消費税は、同年四月一日以降に行われた課税資産の譲渡等について課されるところ、同年分の事業所得の総収入金額は推計によって算出したものであることから、同年分の事業所得の総収入金額の一二分の九を同年四月一日以降に行われた課税資産の譲渡等の対価の額とした。

原告は、平成元年四月二七日、消費税法三七条規定の届出書を被告四日市税務署長に提出していることから、本件各係争年分の課税仕入等の税額は、本件各係争年分とも、同条所定の消費税額の控除の特例が適用され、課税標準額(一〇〇〇円未満切捨)に対する消費税額の一〇〇分の八〇となる(平成三年法律七三号による改正前の消費税法三七条)。

したがって、原告の本件各係争年分の消費税の額は、別表11ないし13「消費税額の計算」の「納付すべき消費税額」欄に記載のとおりであり(一〇〇円未満の端数切捨)、右税額は、いずれも本件消費税更正処分と同額であるから、本件消費税更正処分はいずれも適法である。

(二) 原告の主張

前記のとおり被告の採用した推計方法には合理性がないから、右推計を前提とする本件消費税更正処分も違法である。

5  争点5(本件過少申告加算税賦課決定処分の適法性)について

(一) 被告の主張

本件過少申告加算税賦課決定処分は、前記のとおり、本件各係争年分の所得税及び本件課税期間の消費税について、原告が過少に申告したことから、国税通則法六五条一項の規定に基いてなされたものであり、いずれも適法である。

(二) 原告の主張

前記のとおり、本件各更正処分はいずれも違法であり、原告の行った申告は適法であるから、過少申告加算税の賦課決定処分は違法である。

第三争点に対する判断

一  争点1(本件税務調査手続の適法性)について

1  当事者間に争いのない事実及び証拠(甲七、乙一六ないし二一、乙二三、二四、乙二六、二七、証人松尾修司、同服部義弘、同伊藤望、同片岡孝子、原告本人。なお、証人伊藤望、同片岡孝子及び原告本人の供述中、後記認定に反する部分を除く。)によれば、本件税務調査の経緯は、以下のとおりと認められる。

(一) 前記のとおり、原告は本件各係争年分の所得税及び本件各係争課税期間の消費税について、それぞれ法定申告期限までに、別表1ないし6の各確定申告欄記載のとおりのいわゆる白色申告を行ったが、原告の本件各係争年分の所得税、本件各係争課税期間の消費税及び片岡イーティングにかかる法人税及び消費税の申告額が、その営業規模に比して低額であったため、被告は、その申告内容を確認することとし、松尾主査を指揮者とする調査担当者らを、平成四年一〇月二〇日に、原告の自宅及び店舗に派遣した。

(二) 調査担当者らは、平成四年一〇月二〇日午前九時二〇分ころ、原告の自宅に赴き、先ず、服部上席、北河及び上嶋が玄関前に立ち、服部上席が玄関のチャイムを数回押したところ、パジャマ姿の原告が玄関を開いて応対に出た。そこで、服部上席が、身分証明書を提示した上、「四日市税務署の服部ですが、今日は、所得税、法人税及び消費税の調査で、お伺いしました。」と原告に説明し、さらに、北河が、氏名を名乗って身分証明書を提示した。そして、服部上席が来意を告げている間に、原告の在宅を確認した上嶋が、原告宅の近くで待機していた松尾主査、木村及び大石らを呼んだので、右三名も原告宅の玄関前に集った。

原告は、近所の目をはばかり、「早く中に入れ。戸を閉めろ。」と言って、調査担当者らを、玄関の中に入れた。

(三) 松尾主査、上嶋、木村及び大石が、玄関内において、それぞれ所属、氏名を名乗り、身分証明書を提示するとともに松尾主査が、原告に対し、再度、「法人税、所得税、消費税の調査でお邪魔しました。調査の協力をお願いします。自宅に保管されている伝票及び帳簿類を確認したい。」と述べたところ、原告は、「申告の済んだ年分の帳簿などは捨ててしまった。」と申し立て、申告済の年分の帳簿等の提示がされなかった。そこで、松尾主査が、申告の済んでいない平成四年分の伝票及び帳簿類の確認を求めたところ、原告は、「今年の分はここにあり、まだ捨てていない。いいよ、まああがれや。」と述べたので、調査担当者らは、玄関の上がり口の板間に上がり、松尾主査、大石、上嶋、北河らは、原告とともに、応接セットのある居間に入室した。

(四) 前記四名が居間に入室した後、原告は、それまでの態度とは打って変わって、「なんでここに来たのか。もっと他に行くとこあるんやないか。暇な奴だ。」と述べるなどしたため、本件税務調査の指揮者であった松尾主査が、原告に対して、個人営業の「樽おやじ」及び法人の「片岡イーティング」の両方の調査で赴いたことを改めて説明するとともに、自宅にある伝票及び帳簿類の確認をしたい旨述べて、原告の調査への協力を求めた。

松尾主査は、原告から、双方の事業の概況を聴取するとともに、個人及び法人の記帳状況を尋ね、申告の基礎となった帳簿等の記録の提出を求めたところ、原告は、法人分は帳簿を付けているが、「樽おやじ」については、帳簿は付けておらず、申告の済んだ年分の伝票、帳簿類は捨てた旨述べた。

(五) そこで、原告の申告に至るまでの状況を具体的に把握する必要があることから、申告の済んでいない進行年分である平成四年分の「樽おやじ」の収入及び必要経費の内容の確認を行うため、松尾主査が、原告に対し、平成四年分の売上伝票等の提示を求めたところ、原告は、居間と玄関にあった紙袋を指差して「そこにあるぞ。好きに見てくれ。」と言って、居間と玄関にあった紙袋を見るよう述べたので、調査担当者らは、紙袋の中身を調べ、調査日の直前三日分の売上伝票及び仕入れに係る請求書が保管されていることを確認した。

松尾主査が、原告に対し、右三日分以前の平成四年度の売上伝票等の所在を尋ねたところ、「捨ててはない。外の物置にある。」と答えたため、松尾主査が、「一緒に行きましょう。」と原告に促したところ、原告は、「いいよ。鍵はかかっていないから、勝手に見てくれ。奥の方だぞ。」と述べたので、松尾主査は、服部上席及び木村に指示して、物置内の売上伝票等を取りに行かせ、そこにあった伝票類を玄関内に持ち込んで確認した。しかし、それらを合わせてもなお平成四年一月から同年八月までの売上伝票しか揃わなかったため、原告に、平成四年九月分と同年一〇月分の途中までの伝票類がない旨指摘をしたところ、原告は、「どこだったかなあ。あるはずなんだが。そうだ、車の中にある。」と述べて席を立って、自ら調査官を自動車まで案内した上、自動車のトランクを開いて袋を取り出して、残りの売上伝票類を調査担当者らに提示した。

(六) 原告が個人経営の「樽おやじ」については帳簿を付けておらず、伝票帳簿類は捨ててしまった旨述べ、個人の事業所得を実額で把握することが困難であり、原告の個人資産及び負債の確認をする必要があるものと判断されたため、松尾主査が、原告に預金通帳等を提出を求めたところ、原告は、居間と台所の境にある籐製の三段籠を指差して、「全部そこに入っておりますやろ。」と述べた。松尾主査が、「見せてもらっていいですか。」と原告の了承を求めたところ、原告が、「いいよ。好きに見てくれ。」と了承したので、松尾主査の指示により、北河、大石、上嶋らが、預金通帳等を確認し、原告の了解を得て、持参していた携帯用コピー機により預金通帳等を複写した。なお、原告の保管していた預金通帳の中には、他人名義の通帳も含まれていたが、原告にその理由を問い質したところ、原告が、単に預かっているだけである旨述べたので、これを後刻確認するため、他人名義の通帳についても複写をした。

(七) 松尾主査は、預金通帳以外の原告の資産及び負債の状態を確認する必要から、原告に対し、生命保険証書や不動産権利証などの所在について質問したところ、原告は、「二階にあると思う。」と答えた。そこで、松尾主査が、右書類の提示を求めたところ、原告は、同日午前一〇時三〇分ころに帰宅した妻に、二階にある生命保険証書等を取りに行くよう指示した。そこで、松尾主査は、原告の了解を得て、北河に二階まで原告の妻に着いて行くよう指示し、北河が、原告の妻に同行して二階に上がったが、原告の妻から二階の寝室には入らないで欲しいとの申出があったので、北河は、その入口のところでまち、その後、生命保険証書等を保管している引き出しごと一階居間に運び、そこで、保管物の内容を確認した。

(八) 松尾主査が、原告に対し、原告の決算手続から申告に至る経理処理の過程及び申告書の作成等を行う担当者の氏名等について質問したところ、原告は、売上伝票、支払の請求書、領収書等をまとめて集計して申告するが、申告が済んだら捨ててしまう旨、決算等の担当者は、法人及び個人ともに、片岡イーティングの経営するスナック「バレンシア」の店長である伊藤である旨、法人の帳票類がアーバンビル五階の事務所にあり、伊藤がこれらを保管している旨、アルバイト、従業員の給与支払明細は、現在の分も破棄してしまった旨説明した。そこで、伊藤から個人及び法人の記帳状況や申告内容について、直接聴取する必要があると判断されたため、松尾主査が、伊藤と面接して「樽おやじ」の各店舗及び「バレンシア」の調査を行いたいと原告に依頼したところ、原告は、伊藤に連絡を取り、同日午後三時に調査担当者が伊藤と「バレンシア」で面接することを決め、同日午後零時四〇分ころ、調査担当者らは、調査した書類をできる限り元の場所へ片づけて、原告の自宅を辞去した。

なお、効率的な調査を行うため、売上伝票等の帳票類を原告の許可を得て借用し、その際、「帳簿書類の借用書」を作成して、原告に交付した。

(九) 松尾主査、服部上席及び上嶋の三名は、同日午後二時三〇分ころ、原告の店舗である「樽おやじ」のある四日市市諏訪栄町一二番一九号所在のアーバンビルに臨場し、同ビルの半地下部分及び一階の「樽おやじ」の各店舗において、同店店長奥立会のもと、各店舗の現況の調査をした後、店長奥から、「樽おやじ」の売上伝票の作成状況等の事業の概況を聴取した。

(一〇) 伊藤は、同日午後三時一〇分ころ、「バレンシア」に到着したので、右三名の調査担当者のうち、松尾主査及び上嶋が、伊藤に対し、身分証明書を提示して調査協力を求め、伊藤から、「バレンシア」において、事業の概況及び決算の方法等を聴取するとともに、法人の総勘定元帳等及び個人の確定申告書の控え、収支計算書の控え及び源泉徴収簿の提示を受けた。また、「樽おやじ」での聴取を継続していた服部上席も、同時午後三時四〇分ころには「樽おやじ」の調査を終え、「バレンシア」に場所を移した。

伊藤から法人店舗の会計伝票については、原告が所有するピノキオビルに保管しているとの説明を受けたため、上嶋が、伊藤を同行して、四日市市西新地六番一〇号所在のビノキオビル四階の倉庫に赴いたところ、同所において、法人店舗の会計伝票の他に、原告が捨てたと述べていた「樽おやじ」の平成三年分の売上伝票の全部及び平成元年分の会計伝票の一部が保存されているのを発見した。

(一一) 松尾主査が、同日午後四時一〇分ころ、「バレンシア」に戻った伊藤に個人分の決算書の作成方法を聴取したところ、伊藤は、「平成三年分の決算書を作成したら、多額の利益が出たため、片岡にその旨伝えたら、片岡から売上を一〇〇〇万円ほど少なくするよう指示され、そのようにした。」、さらに、アルバイトの給与については、「よく覚えていないが、適当に書いたと思います。」と供述した。

(一二) 原告が、同日午後四時三〇分ころ、「バレンシア」に到着したため、松尾主査は、原告に対し、「樽おやじ」の平成三年分の売上伝票が残っていたのでこれを借用したい旨依頼し、原告にピノキオビルに行って、同所において借用する現物を確認してもらった上で、「樽おやじ」の売上伝票を借用した。

(一三) 松尾主査は、アーバンビルの事務所に戻った原告に、個人の決算から申告までのことについて、それとなく説明を求めたが、原告がビールを飲み始めるなどしたことや、原告の営業時間のことを配慮し、調査担当者三名は、同日午後五時二〇分ころ、店舗を辞去した。

2  原告は、本件税務調査は、原告の同意なくなされた事実上の強制調査というべきものであることあるいは強制調査であるものと誤信した原告の錯誤に乗じ、原告の真意に基づく同意なくなされたものであること、事前に原告に対する連絡なしになされたものであることなどが、本件各更正処分等の違法事由となるものと主張する。

しかし、課税処分は課税標準の存在を根拠としてなされるものであるから、その適否は、原則として客観的な課税要件の存否によって決せられ、仮に税務調査手続に何らかの違法があったとしても、それが、全く調査を欠き、あるいは公序良俗に反する方法で課税処分の基礎となる資料を収集したなどの重大なものでない限り、課税処分の取消事由とならないものと解される。

そこで、本件税務調査の経緯を検討するに、その経緯は前記認定のとおりであって、本件税務調査において、調査担当者らは、原告の同意を得ながら、原告の言い分にしたがって、税務調査に必要な範囲の資料を確認し、その写しを取るなどしていったものであって、質問検査権の行使は合理的な裁量の範囲内にとどまっているものと認められ、本件税務調査に何らの違法な点は認められない。

また、所得税法二三四条一項の質問調査権の行使は、質問調査の必要があること、相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまることを要件とするが、右限度にとどまる限り、その範囲、程度、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられており、実施の日時場所の事前通知、調査の理由及び必要性の個別的、具体的な告知の如きは、質問検査を行う上での法律上の要件とされているものではないから、被告が本件税務調査において原告に対し事前の連絡をしなかった点は、そもそも質問調査権の行使を違法たらしめるものとはいえない。

したがって、本件税務調査手続の違法についての原告の主張には理由がない。

二  争点2(被告の採用した推計課税の方法及びその合理性)について

1  被告の採用した推計課税の方法について

証拠(乙一、二、乙三の一ないし三、乙四の一ないし三、乙五、乙六の一ないし三、乙七の一ないし三、乙八の一ないし三、乙九の一ないし三、乙一〇の一ないし三、乙一一の一ないし三、乙一二の一ないし三、乙一三の一ないし三、乙一四の一ないし三、乙一五、乙二五、乙二七、乙二八の一ないし三、乙二九、証人松井運仁)及び弁論の全趣旨によれば、被告が原告の事業所得の金額を算定した推計課税の方法は、以下のとおりと認められる。

(一) 被告は、前記のとおり、平成三年分の売上伝票から、同年分の原告の売上金額が実額で把握できたこと、原告の仕入先である株式会社サカツコーポレーション及びマルタマ嶋商店に対する反面調査により、原告が支払った酒・ビールの本件各係争年分の仕入総額が、別表14記載のとおり、実額で把握できたことから、別表7「事業所得の総収入金額について」に記載のとおり、平成三年分については、同年分の売上伝票によって計算した実額を原告の事業所得の総収入金額とし、平成元年分及び同二年分の事業所得の総収入金額については、平成三年分の原告の酒・ビール等の仕入金額に対する同年分の事業所得の総収入金額の割合(自己収入率)を求め、それぞれの年分の酒・ビール等の仕入金額に右の自己収入率を乗じて算出した金額を事業所得の総収入の金額とした。

(二) 被告の上級官庁である名古屋国税局長は、推計課税に当たって必要な原告の類似同業者抽出のため、被告の他、名古屋中、名古屋東、千種、名古屋北、名古屋西、名古屋中村、昭和、熱田、中川、津、桑名、鈴鹿各税務署長宛に、平成七年五月二二日付で本件通達を発し、本件通達に記載した以下の本件抽出基準に該当する者の必要経費率についての報告を求めた。

(1) 日本標準産業分類(総務庁作成。平成五年一〇月改訂後のもの)の分類項目による「分類Ⅰ-卸売・小売業、飲食店」「中分類61-その他の飲食店」「小分類613-酒場、ビヤホール(大衆的設備を設け、主として酒類及び料理をその場で飲食させる事業所をいう)」に属する飲食店を営む個人事業者のうち、所得税法一四三条の青色申告の承認を受けて、平成元年分、平成二年分、及び平成三年分の所得税の確定申告について青色申告書を提出している者で、次のイないしホに該当する者を除く。

イ 右分類に属さない事業を兼業し、かつ、事業ごとに収支を区分した青色申告決算書を提出していない者

ロ フランチャイズ・チェーンに加盟又はそれを主催している者

ハ 平成元年分ないし平成三年分のいずれかの年分において、開業、廃業、休業又は業態の変更をした者

ニ 更正処分又は決定処分が行われた者のうち、国税通則法又は行政事件訴訟法の規定による不服申立期間又は出訴期間を経過していない者並びに不服申立又は訴訟中の者

ホ 所得税及び消費税の調査が行われている者

(2) 事業の収入金額が次の各号に該当する者

イ 平成元年分については、七〇〇〇万円以上一億六六〇〇万円以下の範囲内にある者

ロ 平成二年分については、七四〇〇万円以上一億七五〇〇万円以下の範囲内にある者

ハ 平成三年分については、七九〇〇万円以上一億八七〇〇万円以下の範囲内にある者

なお、報告書の作成に当たっては、「必要経費の金額」欄には、青色決算書の売上原価「差引原価」欄の金額と経費「計」欄の金額及び「専従者給与」欄の金額との合計額を記載することとし、減価償却費の金額は定額法による計算又は定額法による普通償却により計算した額によることとし、必要経費率の同質性を図った。また、類似同業者の必要経費率の報告に当たり、一般経費と特別経費とを区別することを求めなかった。

(三) 被告及び右各税務署長は、本件通達にしたがって対象者を抽出し、各税務署長から、本件抽出基準に該当する者として、本件各係争年分ごとに、合計各七名の報告があり、右七名の本件各係争年分の収入金額、必要経費率(総収入金額に占める必要経費の額の割合をいう)及びその平均値は、別表10「必要経費率について」記載のとおりである。

(四) 被告は、別表7「事業所得の総収入金額について」記載の本件各係争年分の原告の事業所得の総収入金額に、別表10「必要経費率について」記載の本件各係争年毎の類似同業者の必要経費率の平均値を乗じて、別表9「必要経費の額について」記載のとおり、本件各係争年分の原告の必要経費の額を推計し、右推計にかかる必要経費の額を事業所得の総収入金額から減じ、別表8「事業所得の金額について」に記載のとおり、原告の本件各係争年分の事業所得の金額を推計した。

2  推計課税の合理性について

以上の事実に基づいて本件推計課税の合理性について検討する。

(一) 推計方法の適否について

(1) 被告が、前記認定のとおり、実額で把握できた平成三年分の売上金額及び平成元年ないし同三年の酒、ビールの仕入金額を基礎事実として、平成元年及び同二年の原告の事業所得の総収入金額を推計すると共に、同業者比率法のうち、原告の事業所得の総収入金額を基礎として所得金額を算定する方法を選択したのは、平成三年分の原告の売上金額が実額で把握できたこと、平成元年ないし同三年の原告の酒・ビール等の仕入金額が実額で把握できたこと、原告が営む「すし樽おやじ」及び「ステーキ樽おやじ」の各飲食店の営業は、いずれも主としてアルコールを含む飲料を多用なつまみ料理と共に飲食させるいわゆる「居酒屋」であるものと認められるところ、「居酒屋」の営業においては、売上金額(収入金額)と酒・ビール等の仕入金額との間に相関関係が認められること、基礎事実が正確に把握できる限りは、効率法、資産負債増減法によりも比率法による方が、より真実の所得に近似した結果を得られることなどを考慮したものであるが、別表10「必要経費率について」記載のとおり、本件抽出基準によって抽出された各類似同業者の必要経費率には、本件各係争年分を通じて大きな偏差はなく、後記認定のとおり、本件抽出基準によって抽出された類似同業者と原告の営業との間に有意的な差異は見出し難いことよりすると、被告の採用した右推計方法には合理性を認めることができる。

(2) この点、原告は、原告の平成五年分及び同六年分の「所得税青色申告決算書」によれば、原告の必要経費率(収入金額に対する必要経費額の占める割合)は、平成五年分が九九・一パーセント、平成六年分が九七・八パーセントと、被告が基礎とした類似同業者の必要経費率の平均よりもかなり高く(甲一ないし四)、本件各係争年分においても営業規模や態様に変化はないから、本人比率によることが合理的である旨主張する。

しかしながら、証拠(甲一ないし六、乙一六ないし一八、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成五年分及び同六年分の必要経費の金額を算定するに当たり、専従者給与の額を加算しているが、本件各係争年分の申告においては、事業専従者の申告はなされていないこと、原告の平成五年分の売上(収入)金額は、実額によって把握されている原告の平成三年分の事業所得の総収入金額の九三・九パーセント、同六年分の売上金額は、同三年分の事業所得の総収入金額の八六・八パーセントとそれぞれ減少していることが認められるところ、売上金額が減少しても、必要経費の中での固定費の金額は、収入の減少に伴い同様に減少するものではないので、所得率の減少は収入金額の減少率を遙かに上回るのが通常であって、特に、飲食店の場合は、収入金額に直接比例すると認められる売上原価の割合は比較的低いので、所得金額の減少金額は収入金額の減少に近いものとなり、所得率の減少幅が極めて大きくなると考えられることからすると、原告の平成五年分及び同六年分の必要経費率は、本件各係争年分の所得金額を推計する参考とはなりえないというべきである。

(二) 基礎数値の正確性について

前記認定のとおり、被告は、原告の保存していた売上伝票をもとに実額で把握した原告の平成三年分の売上金額及び原告の仕入先である株式会社サカツコーポレーション及びマルタマ嶋商店に対する反面調査等によって実額で把握した原告の本件各係争年分の酒・ビールの仕入金額を算定の基礎数値として用いており、基礎数値の正確性が認められる。

なお、被告は、酒・ビールについての期首及び期末棚卸金額を考慮していないが、原告の本件各係争年分の棚卸金額は不明であったこと、また、本件各係争年分における店舗の増減等の著しい事業内容の変動が認められず、期首及び期末の棚卸金額はほぼ同額であると推認されることから、本件各係争年分の売上原価の額を、同年分の酒・ビールの仕入金額と同額としたことは、基礎数値の正確性を左右しない。

(三) 本件抽出基準の合理性(同業者の業種・業態の類似性)について

(1) 前記認定のとおり、原告が営む「樽おやじ」の営業は、いわゆる「居酒屋」であって、被告が本件抽出基準において、原告の同業者と特定した総務庁作成にかかる日本標準産業分類の分類項目による「大分類Ⅰ-卸売・小売業、飲食店」「中分類61-その他の飲食店」「小分類613-酒場、ビヤホール(大衆的設備を設け、主として酒類及び料理をその場で飲食させる事業所をいう)」は、原告の営業と業態の類似性が認められる。

なお、原告は、「すし樽おやじ」は、客に対して豊富なメニューで寿司や刺身魚料理等を酒類とともに提供しているもので、明らかに業態を異にしており、同業者といえないと主張するが、この主張を考慮するとしても前記認定を覆すに至らない。

(2) 被告が同業者の抽出に際して付した売上金額の条件は、原告の売上金額(平成三年分)又は売上と推定された金額(平成元年及び同二年分)の上下それぞれ四〇パーセントの範囲内のものであり、原告の営業規模の類似性が確保されている(乙二五、証人松井運仁)。

(3) 被告は、原告の店舗が近鉄四日市駅周辺の繁華街にあることから、抽出地域を繁華街を管内に抱えている税務署(被告の他、名古屋中、名古屋東、千種、名古屋北、名古屋西、名古屋中村、昭和、熱田、中川、津、桑名、鈴鹿各税務署)としており、立地条件の類似性が確保されている(乙二五、証人松井運仁)。

(4) 被告は同業者の抽出に際し、他業種を兼業し、かつ、事業ごとに収支を区分した青色申告決算書を提出していない者は、酒場としての経費率の把握が困難であるため、これを除外し、フランチャイズ・チェーンに加盟又はそれを主催している者については、一括仕入でコストを削減できる反面、指導料名目で利益を本部に納入するなど、個人営業の原告との営業形態の類似性を欠くため、これを除外し、平成元年分ないし平成三年分のいずれかの年分において、開業、廃業、休業又は業態の変更をした者については、経営状態の類似性を欠くため、これを除外して、原告との経営状態の類似性を確保している(乙二五、証人松井運仁)。

(5) 被告は同業者の抽出に際し、抽出対象者を所得税一四三条の青色申告の承認を受けて、平成元年分、平成二年分、及び平成三年分の所得税の確定申告について青色申告書を提出している者に限定し、所得税及び消費税の調査が行われている途中の者及び更正処分又は決定処分が行われた者のうち、国税通則法又は行政事件訴訟法の規定による不服申立期間又は出訴期間を経過していない者並びに不服申立中又は訴訟中の者、所得税及び消費税の調査が行われている途中の者を除外し、抽出資料の正確性を確保した(乙二五、証人松井運仁)。

(6) 以上のとおり、本件抽出基準は、原告の営業との業種業態、営業規模、立地条件、経営状態等の類似性が担保されており、同業者抽出基準として合理性が認められる。

(四) 同業者抽出過程の客観性について

前記二1(二)(三)認定のとおり、本件の類似同業者の抽出は、四日市税務署長他一二税務署長が、上級官庁である名古屋国税局長からの本件通達に従って、無作為、かつ、機械的に行ったものであるから、被告の恣意が介在する余地は皆無であって、抽出過程の客観性が担保されている。

(五) 同業者抽出件数の合理性について

前記二1(三)認定のとおり、本件抽出基準により抽出された同業者は、本件各係争年分共に七件が報告されており、前記の同業者抽出基準の類似性に鑑みると、合理性を担保しうる件数ということができる。

(六) 推計の方法による所得金額は、その性質上、客観的実体に合致することを要しないことはもとよりであるが、経験則上、一応の合理性を保有することを要するところ、以上のとおり、本件推計においては、推計方法の適切性、業種業態の同一性、営業規模の類似性及び平均値算出過程の整合性等、推計の基礎的要件に欠けるところはなく、被告の行った推計には合理性が認められる。

(七) 原告の個別事情について

原告は、<1>原告の営業においては、同業者に比較して、被告の料理の食材費や調理人の人件費、諸設備等の諸経費が占める割合が高いことが類型的に認められ、当然必要経費率にも顕著な有意差が生じること、<2>「樽おやじ」の各店舗は、一年間で合計一二〇〇万円の賃料を特別経費として支出し、地代家賃の負担がかなり大きかったところ、本件通達においては、必要経費額の報告に当たり、一般経費と特別経費の区分が行われていないことなどから、本件抽出基準によって抽出された同業者は原告との類似性を欠き、被告の推計には合理性がない旨主張する。

しかしながら、前記のとおり、業種業態の同一性、営業規模の類似性及び平均値算出仮定の整合性等、推計の基礎的要件に欠けることがない以上、納税者の個別事情は、これが平均値による推計自体を不合理ならしめる程度に顕著なものがない限り斟酌することを要しないものと解すべきであり、前記のとおり、本件においては、抽出基準、抽出過程、抽出された類似同業者には合理性が認められ、推計の基礎的要件に欠けるところはないものと認められる。

そして、原告の営業においては、同業者に比較して、被告の料理の食材費や調理人の人件費、諸設備等の諸経費が占める割合が高いことが類型的に認められ、当然必要経費率にも顕著な有意差が生じるとする原告の主張は、これを裏付けるに足りる証拠はない。また、前記のとおり、類似同業者の必要経費率の算定に当たり、本件通達では、一般経費と特別経費とを区別していないから、被告が主張する類似同業者の中に地代家賃等の支出がない同業者が含まれている可能性はあるが、別表10記載のとおり、抽出された類似同業者の必要経費率に大きな偏差はないことなどからすると、仮にそのような同業者が含まれていたとしても、地代家賃の支出の有無によって、必要経費の率が顕著に異なるものとは認められない(乙二五)。

三  争点3(本件所得税更正処分の適法性)について

1  事業所得の金額について

前記二1認定のとおり、原告の本件各係争年分の事業所得の金額は、別表8「事業所得の金額について」に記載のとおりと認められる。

2  他の所得について

原告の本件各係争年分の不動産所得及び給与所得の金額は、原告の本件各係争年分の所得税の確定申告書(乙一六ないし一八)記載のとおりである点については、当事者間に争いはない。

3  総所得金額について

以上によれば、原告の本件各係争年分の所得金額の内訳及び総所得金額は次のとおりとなるものと認められる。

(一) 平成元年分

事業所得の金額 金一九〇一万五六七三円

不動産所得の金額 金 四一七万三〇三八円

給与所得の金額 金 三三四万五〇〇〇円

総所得金額 金二六五三万三七一一円

(二) 平成二年分

事業所得の金額 金一九五二万八二九四円

不動産所得の金額 金 四一二万三四七七円

給与所得の金額 金 三三四万五〇〇〇円

総所得金額 金二六九九万六七七一円

(三) 平成三年分

事業所得の金額 金二〇一三万三一三六円

不動産所得の金額 金 四一一万九三〇〇円

給与所得の金額 金 三五一万一四〇〇円

総所得金額 金二七七六万三八三六円

4  所得控除の額について

前記3認定のとおり、本件各係争年分の総所得金額は、いずれも一〇〇〇万円を超え、所得税法八三条の二第二項の規定により、平成元年分及び平成二年分の配偶者特別控除の適用はなく、証拠(乙一六ないし一八)によれば、その他の所得控除の額は、本件各係争年分の所得税確定申告書記載のとおりと認められるから、原告の本件各係争年分の所得控除の額は、平成元年分が二二〇万一〇〇〇年、同二年分が二二二万三〇〇〇円、同三年分が二二四万〇〇〇〇円となる。

5  課税所得金額について

以上によれば、原告の本件各係争年分の課税所得金額は、次のとおりとなるものと認められる(一〇〇〇円未満の端数切捨て)。

(一) 平成元年分

総所得金額 二六五三万三七一一円

所得控除の額 二二〇万一〇〇〇円

課税所得金額 二四三三万二〇〇〇円

(二) 平成二年分

総所得金額 二六九九万六七七一円

所得控除の額 二二二万三〇〇〇円

課税所得金額 二四七七万三〇〇〇円

(三) 平成三年分

総所得金額 二七七六万三八三六円

所得控除の額 二二四万〇〇〇〇円

課税所得金額 二五五二万三〇〇〇円

6  本件所得税更正処分の適法性について

以上検討したところによると、本件所得税更正処分は、いずれも右に認定した本件各係争年分の原告の課税所得金額の範囲内であるから、その範囲内でなされた本件所得税更正処分はいずれも適法と認められる。

四  争点4(本件消費税更正処分の適法性)について

1  証拠(乙一九ないし二一)及び前記認定の原告の事業所得の総収入金額によれば、原告の本件各係争年分の基準期間(昭和六二年分ないし平成元年分)の課税売上高は、いずれも三〇〇〇万円を超えるものと認められ、原告は、消費税法九条一項規定の免税事業者には該当しない。

2  原告の本件各係争年分の課税資産の譲渡等の対価の額は、事業所得の総収入金額及び不動産所得の総収入金額の合計額であるところ、前記認定の原告の事業所得の総収入金額(別表7)及び証拠(乙一六ないし一八)によれば、原告の本件各係争年分の課税資産の譲渡等の対価の額は、別表11ないし13「消費税額の計算」の「課税資産の譲渡等の対価の額」欄に記載のとおりとなるものと認められる。

なお、平成元年分の消費税は、同年四月一日以降に行われた課税資産の譲渡等について課されるところ、被告は、同年分の事業所得の総収入金額が推計によって算出したものであることから、同年分の事業所得の総収入金額の一二分の九を同年四月一日以降に行われた事業所得の収入金額とし、不動産所得の収入金額も、同年分の不動産所得の収入金額の一二分の九として、同年分の課税資産の譲渡等の対価の額を算定したものであって、合理性が認められる。

また、弁論の全趣旨によれば、原告は、平成元年四月二七日に、消費税法三七条規定の届出書を被告に提出していることが認められ、本件各係争年分とも、同条所定の消費税額の仕入税額控除の特例が適用されるところ、原告の営業は、小売業に該当するから、本件各係争年分の課税仕入にかかる税額は、課税期間の課税標準額(一〇〇〇円未満切捨)に対する消費税額の一〇〇分の八〇となる(平成三年法律七三号による改正前の消費税法三七条)。

以上によれば、原告の本件各係争年分の消費税の額は、別表11ないし13「消費税額の計算」の「納付すべき消費税額」欄に記載のとおりとなるものと認められ(一〇〇円未満の端数切捨)、右税額は、いずれも本件消費税更正処分と同額であるから、本件消費税更正処分はいずれも適法と認められる。

五  争点5(本件過少申告加算税賦課決定処分の適法性)について

以上によれば、原告がなした本件各係争年分の所得税及び本件各係争課税期間の消費税の申告は、過少であったものと認められ、被告が、国税通則法六五条一項の規定に基づいてなした、本件過少申告加算税賦課決定処分は、いずれも適法であるものと認められる。

六  よって、原告の請求には理由がないから、本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大津卓也 裁判官 新堀亮一 裁判官 藤井聖悟)

本件課税処分等の経緯

別表1 (平成元年分所得税)

<省略>

別表2 (平成2年分所得税)

<省略>

本件課税処分等の経緯

別表3 (平成3年分所得税)

<省略>

別表4 (平成元年課税期間消費税)

<省略>

本件課税処分等の経緯

別表5 (平成2年課税期間消費税)

<省略>

別表6 (平成3年課税期間消費税)

<省略>

別表7

事業所得の総収入金額について

<省略>

別表8

事業所得の金額について

平成元年分

<省略>

平成2年分

<省略>

平成3年分

<省略>

別表9

必要経費の額について

平成元年分

<省略>

平成2年分

<省略>

平成3年分

<省略>

別表10

必要経費率について

平成元年分

<省略>

平成2年分

<省略>

平成3年分

<省略>

別表11

消費税額の計算

平成元年分

<省略>

別表12

消費税額の計算

平成2年分

<省略>

別表13

消費税額の計算

平成3年分

<省略>

別表14 酒等の仕入金額

<省略>

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